アフリカからの熱風が舞い込む7月の暑い夕方
私はバールでスプーマという炭酸水を飲んで一息ついていた

7月下旬フィレンツェの街からイタリア人たちが消えていく時期
夏は海か山の涼しい場所に避難するかのように
フィオレンティーニ達は姿を消しだす
子供達は6月の半ばから3カ月という超ロングランのバカンスに
VIA MAGGIO通りには地図を持つツーリスト達の多国語が響くようになる

幼い頃の夏休みはほぼ田舎の祖父宅で過ごした私の幼少期
母に新しく買ってもらったワンピースは滅多に顔を出すことはなく
従兄弟達と走り回っていた私には短パンとタックトップ姿がぴったりだった
そんな遠い夏のあの時間
何時間もプールの中で過ごしていた
あの頃の時間の流れが思い出せそうで思い出せない

il tempo

イタリアで過ごしだした私の時間は
日本で生活していた頃に比べると速度を落とした車のようだ
ここでは心の速度はちょっと遅めにしておくくらいが楽な暮らし方だとわかった
イタリアの空気に馴染みながらときにはぼーっとしてみる

時間だけは、誰の元にも平等で、 どんなにがんばっても、とめることはできない。
いいことも、わるいことも、過ぎていく。 いいことは、過ぎ去ってしまう前に十分に楽しんで、
わるいことは、過ぎ去るのをじっと待つのもいい
流れる時よ、ほんの少しだけ、私に味方して.....

グラスの炭酸水を飲み干してカウンターに置いた
私の耳元で輝くこのピアスが私の幸せの時間の味方をしてくれるはず

バールのパトリッツィアが私の顔を見て微笑んでいた

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6月の暑い金曜日の午後彼女はこの絵に引き込まれるかのように
お店に入ってきた
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壁に掛けられた額縁の中にあるこの本棚の絵に声を失ったかのように
静かに見つめていた
アトランタ出身のレイチェルは現在ローマに留学中
短パン・ランニング・ウォーキングシューズの彼女
全く体に無駄なお肉がついていない赤毛のアンのような女の子
ほんの少し彼女がこの絵から視線をずらした瞬間を待ち
私は軽く挨拶をした
彼女はすぐに笑顔は返してくれなかった

私はそんな彼女にこんなお話しを切り出した
『誰かのお家に入った時にその方の本棚を見て、あまりに自分と違ったことってないですか?』
素敵な表紙の本だったり、タイトルに引かれて捨てれない本
何度も何度も読み返したい大好きな一冊だったり.....』

数秒後、彼女の目の表情が変わったのがすぐにわかった
最初は英語で話していた私だが彼女の返答がイタリア語だったため
とてもスムーズに話が進んだ
彼女は1年の留学生活を終え7月にアメリカに帰国するという
この絵が気に入ったの??と聞くと
私は本が大好きでこの1年間に沢山の本をここイタリアで読んだの!
帰国前にイタリアの各都市を巡ってフィレンツェに到着した彼女は
手に持っていた紙袋を私に見せて、また買ってしまったという顔をし
アメリカにどうやって持って帰ろうか頭を悩ませているという

このリングは貴方のためのものだわ!!
と私は彼女の前に差し出した
本棚
彼女は額縁に掛けられた絵と見比べてため息をついていた

数日後、私の目の前に現れたのは
デコルテが大きく開いた真っ白なワンピース姿のレイチェルだった
私は扉を開けるとボンジョルノよりも先に『COME SEI BELLA !!!! 』
なんて綺麗なの!!と思わず口に出した

今日の彼女は赤毛のアンが大人になった姿だった
真っ白な肌、ほぼお化粧はしていない彼女の笑顔はまるで天使のようだった
そして彼女は言った
『私の運命のリングを迎えにきたのよ!!』
そう.....彼女にとってもうすぐ経ち去るこの国での経験や生活の思い出を
このリングと一緒に持ち帰ろう。。そして私のアメリカの本棚には
イタリア語の本が沢山並ぶのよ!家にくる友人達はそれを見て
私のイタリアでの生活を想像することでしょうーーと満足気だった

最後にお店を出る前に優しい笑顔で
『このリングを見たら貴方のことも思い出すわ!!』
まるで昔からの親友のようなそんな空気を感じさせてくれた彼女
初めてお店に入って来た時の彼女の印象はもう私の記憶にはなかった

これは彼女の深く濃い1年のイタリアでのページであり
これからの人生でレイチェルは数えきれない大切なものを残していくのであろう
アメリカの彼女の本棚をいつか見てみたいと思った



心の蓄積ーー私の本棚もそんな風に蓄積していきたい


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クアラントットーフィレンツェ本店をオープンして早くも半年の月日が経過した
寒い冬の時期から春を迎えあっという間に35度を超す真夏になった

今日は私の耳元で輝くこの蜂を鏡で見ていてフッと思いだしたあの出来事
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ある寒い2月の朝、こんなハプニングが起こった
いつものようにお店に入りウィンドーにジュエリー達を並べていく時間
自転車で出勤している私の手はカチカチに冷えていた
この瞬間はジュエリー達におはよう!!の挨拶をしたり
毎日一緒に過ごす私の沢山のお友達のようになっていた

最後に取り出したネックレスーーーふっ!と気づくと
いつも私のことを見つめていた蜂のネックレスが消えている
私はまるで心臓をグッと握りつぶされるような血の気が引く思いがした
おかしい!!床に落ちた?それとも??
探しても出てこない蜂のネックレスに私は泣きそうになっていた

途方に暮れて最後にすべてのディスプレーの裏側を確認したら
なんと裏側の針に刺さって残っていた
安心した気持ちと同時に私は叫んだ
『 VATTENE VIA !!!! 』
どこかに行ってしまえーーーと…

その数日後ーーー蜂のネックレスはアメリカ人女性のもとにお嫁に行った
そして。。。残っていたピアスのお姉さん蜂はオーストラリア人の方に嫁ぎ
私はちょっと後悔した。。。。蜂は私のラッキーアイテムだったんだ!!
あの日の朝...貴方に投げた言葉を.....
今私のもとにやってきたこの子は私の耳元で輝いている
日本からやってきたこの子には色んなフィレンツェの景色を見せてあげたい
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貴方は私のPORTAFORTUNA.....

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クアラントットのこんなマリッジリングを御存知ですか?
FIOCCO FIORENTINO ---直訳するとフィレンツェのリボン
フィレンツェで人生の大切な瞬間を迎えられたお二人はこのリングを選ばれました
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6月24日のフィレンツェ守護聖人の日ー教会の12時の鐘が鳴り響く頃
VIA MAGGIO 15Rに笑顔でご来店されたお二人は
果物でいうと甘酸っぱいサクランボのような香りがしてきそうなフレッシュさを感じさせてくれた

私はフィレンツェの職人が仕上げたそのリングをお二人の前にそーーっと置いた
お互いの目を見つめあう中それぞれのリングとご対面
薬指に慣れない手つきで付けてあげる姿が微笑ましかった  
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そんな彼らは翌日フィレンツェでフォトウェディング
昨日のカジュアルな二人とは打って変わってドキッとするくらいエレガント
彼女の綺麗な長い黒髪はキュッと上げられ首のラインが綺麗にでていた
日本人特有のシルクのような白い肌にウェディングドレスの白が更に反射していた
二人の手にはFIOCCO FIORENTINOが輝いていた

今日のような特別の日
そして繰り返される日常のすべてを記録していくのはこのリング達
この先少し傷がついてもそれは二人で歩く人生の足跡と思いたい

ちょっと辛い日が訪れてもこのリングを見たら
あの日フィレンツェで感じた空気を思い出して欲しい
優しく二人を結ぶリボン...積み重ねていく愛

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人生の中でこんなに沢山の国籍の人たちと知り合えたのは
ここフィレンツェに住んだことのひとつの宝なのかもしれない
イタリア人だけではなく多国籍の人種と。。。

私が知り合ったころのアンナはまだ16歳だった
幼い頃に中国から家族で移住した彼女はアジアの香を残しながらも
仕草や話し方はほぼイタリア人のように成長した

若くはじけるような彼女の肉付きのいい体のラインはアジア人の女の子からかけ離れていた
がしかし笑顔で笑う彼女の細い目はたっぷり塗り込まれたアイラインの下で
ほのかに異国の空気を残していた

そんな彼女には同国の素敵な彼がいた
久しぶりに会った彼女は可愛い女の子から30歳を目の前にする
いい女になっていて私をドキドキさせた

ストレートの真っ黒な髪はマイルドなチョコレート色に
真っ赤に塗られた唇そして綺麗に整えられた爪
もうあの頃の彼女が思い出せないくらい魅力的な女性に変身していた
そんな彼女が左の薬指に光らせていたのはベルベットのようなイエローゴールドのリング
『私からプロポーズしたの!!』 彼女は私に報告した

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えっ!貴方から??と聞くと。。。
彼女はその日の夜のことを静かに語りだした

ずーーっと彼からいつの日かリングの箱を渡されることを待っていたの
その日は来るのか?それとも???
勿論ロマンチックなシチュエーションでリングを男性から渡されることは
女性にとって待ちに待った瞬間なのかもしれない

ある日の夜彼女は海の見えるレストランのテラス席を用意して
彼を食事に誘った
美味しいシーフードに舌鼓を打ちながら二人はいつもの時間を過ごしていた
カメリエーレがドルチェのオーダーを聞きに来たあと
彼女は少し席を外した 
戻ってきた彼女は口紅を塗り足し頬に少しラメの入るチークを入れていた

彼女は独り言のように 『今日もこの景色を貴方と見れて嬉しいわ!』 呟いた
聞こえないふりをしていた彼はいつものように笑顔で返事を返した

そこにオーダーをしたドルチェが運ばれてきた
カメリエーレはそっと彼の前にお皿を置くと銀の半円のクロッシュに手をかけ
アンナの目を一度見た後そーーっと蓋をとった

なんとそのお皿の上には甘いドルチェではなく白いジュエリーボックスが置かれていた
アンナは彼の傍に行くと。。。。『Mi vuoi sposare??? 』 私と結婚したい??
まさか。。。彼女からこんなサプライズがあるとは夢にも思っていなかった彼
言葉も出ずただただ彼女を抱きしめた。。。。
そして彼女はイエローゴールドに輝くベルベットのようなリングを
ゆっくり彼の薬指につけた

LA BELLA MATTINA

バスルームに行くと席を外した彼女はご年配のカメリエーレに
私今からプロポーズするから協力して!!とお願いしていたのだ
白髪の優しい微笑みをもつカメリエーレはドルチェを出したあと柱の陰から
二人の大切な時間を見守っていた

愛のカタチにルールはない.......
そんなことを教えてくれたような気がした


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